お母さんの攻略なくして、ダイエットの攻略なし
しかしながら、このラスボスの攻略なくしてダイエットクエストのエンディングを見ることは出来ません。ラスボスは何食わぬ表情でいつもあなたの傍にいます。時に温かく、時に無邪気に。また、通常攻撃の『お母さんの味』がそのまんま必殺技になっている、『はじめの一歩』でいうところの鷹村守のような圧倒的な強さも備えています。
果たして餓えに餓えたダイエッターである私達に、果たして成す術はあるのでしょうか？
名だたる数々のダイエッター達があっけなく散っていったことからもお分かりのように、『意志の強さ』という正攻法で太刀打ちするのはほぼ不可能に近いと言えるでしょう。丸腰でかなう相手ではありません。けれども、方法はあります。丸腰でダメなら武器を持てば良いのです。
これからラスボス母さんでお悩みの皆様に、7本の『ダイエットの勇者の剣』を授けたいと思います。
1.『お母さんの手料理がダイエット成功のご褒美だよ』の剣
何の前触れもなく貴方の大好物を作ってくれるお母さん。育ちざかりの頃なら喜びの声を上げられますが、ダイエット中は胃袋を満たさんばかりの涙が流れるばかり……苦渋の決断が迫られます。
ですが、事前にダイエットの計画をお母さんに伝えておけば、この事態を回避することは出来ます。こう言っておけば良いのです。「1か月頑張れたら、好物のアレつくってね」と。
こうすればダイエットに張合いも出ますし、前もってそのカロリー分を消費しておくことも可能になります。ただ、せっかく楽しみにしていたのに、お母さんがそのダイエット計画をすっかり忘れてしまっている場合については、知ったこっちゃありません。
残念ながら、それがあなたの母親なのです。
2.『好きな人ができました』の剣
お母さんだってその昔恋をしていました、ひょっとしたら今もしているかもしれませんが、ご家庭の事情は本件とは無関係です。この剣の使い方は簡単です。『耳をすませば』の月島雫ばりの言い回しで「好きな人ができました」とお母さんに告げましょう。
そうすればきっと恋する乙女の微妙な心理を理解してくれるはずです。「だから少しでも痩せて綺麗になりたいの」と付け加えておくのも忘れずに。
けれどもこの方法は、稀に反応が過剰になることがあります。「やれ、写真はないのか？」だの…「やれ、どんな人なの？」だの…「やれ、私もあんたくらいの頃には……」だの…
この状態になってしまった場合には取りあえずの撤退を強く推奨します。イチイチ聞いてくるストレスで、ダイエットどころの話ではなくなるからです。
3.『軽くご飯を食べに行く約束があるから夕飯は少な目にね』の剣
たまにカロリーを取りたくない余りに、「ご飯は済ませて来ちゃった」と嘘を付いてしまう方が散見されますが、これはお母さん相手には逆効果にしかなりません。むしろ敵をより一層強化させてしまいます。
「食べてくるならもっと早く言え」「明日食べなさい」こう言われて貴方は、その後の外で食べてくる自由を永遠に奪われることになります。これはたった一度しか使えない回避魔法なのです。
そこでオススメなのが「軽くご飯を食べに行く約束があるから夕飯は少な目にね」の一言です。お母さんが食材を調理する前に言い渡す必要がありますが、夕飯自体は少しは食べているのでお母さんの心配を和らげる効果があります。『子供にきちんとご飯を作ってあげた』という満足感を同時に与えられる点でも秀逸です。
しかし、少なめの意味を理解していないお母さんにはこの剣は使えません。
4.『家計費節約で家族皆でお食事会』の剣
涙なくしては語れぬ剣の物語です。ダイエットしたいから、その浮いた分の食費をためて、終わったら家族皆で食事に行こうと提案してみましょう。「足りなかったら、私もバイトして少し出すからさ」なんて言えば、もうお母さんは涙でボロボロです。
大抵の親は、その後、お金のことは気にしなくていいのと言ってきますが、その時は「じゃあダイエットはしたいから、上手く言ったら美味しいもの食べに行こうね」とでも返しておきましょう。
少なくとも、ダイエットに関して気にはかけてくれるようになるはずです。
ですが、冒頭の提案をあんまり大げさにはやり過ぎないように。ヘタにやり過ぎると、お母さんは喜びの余り、次の日からおかずを一品増やしてしまう可能性があります。
5.『お父さんを使う』の剣
家庭内の力関係を見極める能力が求められる剣ですが、使えそうなら使ってみましょう。
お父さんに全面協力して貰い、カロリーの高いものを作ろうとしているお母さんを制止して貰うか、代わりに料理を食べて貰うのです。
また、健康診断の結果が悪かったお父さんがいる場合に関しては、上記よりも効果的な大変ラッキー（？）な手段を取ることも出来ます。「お父さんの体のことを考えて、健康的なオカズにしよう」との誰も傷つかない提案が視野に入ってくるからです。
使える者は何でも使っておきましょう。
協力してくれたお父さんへのお礼は、「お父さん大好き！」と一度だけ言っておけば十分です。それ以上言うと付け上がります。
6.『お母さんと一緒にダイエット勝負をする』の剣
お母さんに体系を気にする気概がまだ残っている場合には、かなり有効な剣です。昨日の敵は今日の友、敵を味方につけてしまえば何にも怖いものはありません。勝負といってもそこは親子和気藹々としたお遊びみたいなものです。こうなれば、もう気分はセンテンススプリング。あとはバッチリ痩せてやるだけになります。
でも、この剣には諸刃の刃的な欠点があります。ガチで勝負にくるお母さんの場合、これまで以上の妨害に遭うことがあります。これはもう無理です。一度は絶対負ける戦闘イベントみたいなものだと思ってあきらめましょう。
ここは現実世界なので、実際にダイエットとしてはゲームオーバーになりますが、ヘタに刺激をしてしまうと、体重が減るどころか増えてしまう結果になってしまいます。見方を変えれば、あなたには半分しかお母さんの血が入っていないのです。
回復魔法もなしに、自分の二倍の能力を持つ相手に挑むことを人は勇気とは呼びません。人はこれを無謀と呼びます。
7.『必殺一人暮らし』の剣
最後の手段ですが、許されるなら引っ越しましょう。
ダイエットを終わらせれば、お母さんは敵ではなくなる
これらの勇者の剣のいずれを使ったとしても、おそらく闘いは熾烈を極めるでしょう。互いに愛あるがゆえに、闘いの途中に多くの衝突が起こるのは当然のことです。ここがこの戦いを困難なものとしている、最大の要因だと言えるかもしれません。
そもそもお母さんには敵である自覚がありません。体のことを考えて、あなたの一番の味方でいるつもりでいます。実際、ダイエット以外の部分では強い味方です。
悪気なんて一つもなく、息子や娘を想うあまり結果的にラスボスになってしまった。
ご飯を毎日作ってくれる。気まぐれに好物を買ってきてくれる。ダイエットの面から見れば、これは障害となる事柄かもしれませんが、ダイエットが終わってしまえば全ては愛ゆえの賜物になります。
本当の意味でラスボスを倒すという意味は、ダイエットを終わらせてしまうことに他なりません。ダイエットが終わり理想の体型が維持できるようになったとき、ラスボスとしてのお母さんは消え、いつものお母さんが復活します。
ダイエットを成功させることが出来れば全ては報われます。
置かれている状況によっては、使えない剣もあると思いますが、状況に合ったものを選んで使用してみて下さい。勇者たちの無事の帰還を心よりお待ちしております。
