Aちゃん
28歳会社員。幹事で記者の友人。趣味はお酒をのむことと旅行。ノリはいいが酒癖が悪い。今回もノリと酒の勢いで協力してくれたため、こちらが連絡するまでは約束を忘れていた好人物。
Bちゃん
26歳会社員。Aちゃんの会社の後輩。可愛いくてひかえめ。ただし時々、ドライアイスよりも冷たい毒を吐くとのこと。
Cちゃん
27歳会社員。Bちゃんの大学の先輩。背が高い。言葉遣いが丁寧。仕事で営業をしているだけあって、気配りが孫が来た時のおじいちゃんおばあちゃん並み。
Dちゃん
28歳主婦。Aちゃんの高校時代の友人。ややぼっちゃり。笑った後に急に真顔になる芸を持つ。しゃべることが大好き。嫌いなものはシーザーサラダ。
さて、愛と悲しみの他己紹介が終わったところで、話を女子会に戻そう。
この女子会の導入時であるが、彼女たちがもっとも白熱した話題は、意外にも『仕事について』であった。男子の一方的な偏見から言わせてもらえれば、『ずっと恋バナ』か、『ずっと男の悪口』。そして、話題に困った時には『ここの料理おいしいねの話』をするものだとばかり考えていたからだ。
Cちゃんは特に仕事のことで悩んでいるようで、皆に真剣に相談している。仕事内容は良くわからなかったが、どうもこれからのキャリアについて悩んでいるようだ。皆もうんうん、といった感じで表情は優しげである。
やさしい世界。大和撫子。忘れかけていた美しい国日本の光景がそこには広がっていた。
女子会が中盤に差し掛かっても、そうした様子は変わらない。仕事のこと。家族のこと。過去の思い出話。海外旅行に行った話。
男だけの飲み会に比べると、話にオチを付けるところが少なく感じられたものの、その分綺麗な話が続く。若干、聞き手と話し手が偏っていた部分はあっても、それはそれぞれの役割のようなものであり、やけに秩序だっているのである。
しかし、そう思って感動したのも束の間、終盤戦に差し掛かろうかというところで、いよいよ雲行きが怪しくなってくる。
そう、ほろ酔いになってきたAちゃんの舌がノッて来たのだ。
女子会中のの恋バナは独特の空気感が漂う
そういえば、彼氏とどうなの?
グラス片手のAちゃんのこの一言を皮切りに事態は一変する。この日のターゲットはBちゃんだ。まるで数日前から練習してきたかのようなチームワークで、ターゲットに追い込みがかけられていく。
追い込みといっても激しさはない。しかし、ゆっくりとだが確実に真に迫る独特の空気感がそこにはあった。
Aちゃんと高校の同級であったCちゃんは、ここぞとばかりに彼女をサポートする。どうやらBちゃんの彼氏はAちゃんと同期のようで、酒の肴としては打ってつけだったようだ。ここら辺はやり方が違うだけで、そこらの酔っ払いのおっさんと何らかわらないものを感じる。
だが、Bちゃんも、AちゃんとCちゃんの阿吽の取り調べに屈したからというわけではなく、自然と話したいことを話している感じだ。ちなみに私がこの時点までに発した言葉で覚えているのは、「はい。飲んでます。ごはんもおいしいです」的なものだけである。
女子会の会話に結論はいらない
ここからは、もう恋バナ、結婚バナ、いい男がいないバナの雨あられだ。彼氏持ち1人、彼氏ナシ1人、好きな人アリ1人、既婚者1人、オブザーバー1人。役者は揃った。
話の切り替わりは、タガが外れてしまったかのように激しい。序盤もそこそこ凄かったが、あれとは比べものにならないスピード感だ。話が終わらせてしまっていいのかと言うタイミングで話が終わり、気が付けば次の話になっている。話には結論が必要だとばかり今まで思っていたが、女子会に限ってはどうもそうではないらしい。
女子会の会話に結論はいらない。
この女子会参加を通して、私が唯一得られた結論はこれである。
会の終わりまで二人組で話しているかと思えば、皆で話していたり、皆で話しているかと思えば、二人で話していたり、展開が目まぐるし過ぎて本当についていけない。
やはり、男子に女子会は無理なのか?
そう思った矢先、奇跡が起きた。
気遣い上手のCちゃんが、私に話を振ってくれたのである。結婚ってどう思いますか?と。
どこの輪でその話がされていたのかはわからないが、他の三人が注目する中、私は自信を持ってこう答えた。
良いことだと思います!!!と。
Cちゃんからは、小声で「そうですか」とだけ返事があった。
そうして女子会は、そんな私の元気な声に誘われるように、自然と落ち着くべき方向に落ち着いていった。結婚については二度と彼女たちの話題にあげられることはなかった。というか、二度と私に質問が振られることはなかった。
最後に会計がテーブルに運ばれ、私は目にもとまらぬスピードでそれを手に取る。
Dちゃんが払うよと声をかけてくれる。それに続いて、そうですよと他の女子も声をかけてくれる。いい子達だ。一度断っただけで、高速で全員が財布をしまってくれるところも大変ありがたかった。細かい2円を出そうとまでしてくれた。
こうして私の挑戦は終わった。
テーブルを立ち上がる時にAちゃんに「どうする二次会もくる?」と聞かれる。彼女たちの夜はおそらくこれからなのだろう。
彼女の気遣いに感謝しつつ、私は丁重にお断りして家路へとついた。
こんな私でも言えることが一つだけある。
男子は女子会にいくな。
当たり前のようだが、日本男子として、これはゆめゆめ肝に銘じておかなければならない。
数時間後、Aちゃんから連絡が入る。
「男の人がいたから多少気を使っていたと思うけど、だいたい女子会ってあんな感じだよ」と。
その連絡の後、私はすぐに床についた。
現実にはあり得ない、『けいおん!』のような女子会を想像しながら……