2.コンビニの店員(耐用月数:2ヶ月)
ネットなどを見ていると、コミュ症御用達という印象を受けるかもしれませんが、大きな間違いです。朝、昼、夜、を問わず、品出しの途中でレジに戻る空気を読む作業、そして、暇な時間帯のちょっとしたコミュニケーション能力が要求されます。全体の会話の分量としてはさほど多くはないものの、この阿吽の呼吸をひとたび乱せば、たちまち使えない奴のレッテルが張られることになるのがこの職場です。
そうなれば、後はどんよりした空気のようなオーラをまといながら、暗い暗い作業だけを続けるぐらいしか出来ることはありません。レジ打ちでも他の店員の目が気になって、次第にぼそぼそとしかしゃべれなくなり、お客さんからも怪訝な目で見られることになります。なお、一見、1名で回している店舗なら、コミュ症でも平気だと思われているようですが、変なのが入ってきた瞬間にその夢はあっけなく破れます。深夜帯は特に不安がいっぱいです。
3.居酒屋の厨房(耐用月数:1ヶ月)
言わずもがなです。コミュ症は飲食店の仕事に手を出さないのが鉄則です。パチンコ店員の経験を経てもなお、自分をあきらめ切ることが出来ず、厨房なら何とか……とついつい勤めてしまった私のようになってはいけません。ただ、ホールよりも職場の方とコミュニケーションを取る場面が多い仕事だとは、思いも寄らなかったのです。
アレ上がりましたか?これ洗っといて!と、調理場内は、誰にかけているかも分からぬほどの会話の応酬が起こります。そこはホールに向けて、機械的に「はい、喜んで!」と言っているだけで済む甘い世界ではありませんでした。
4.引っ越し(耐用月数:1ヶ月)
とにかく体育会系……この一言に尽きます。力は強い方でしたので、黙々と荷物を運んでいれば良いと思っていましたが、そんなことはありませんでした。一人では持てない荷物の運搬や、梱包作業などを声を掛け合いながら手早く行う能力、そして、リーダーが出した指示を適切に理解して家具を配置する能力が必須です。
それらに付随して必ず求められるのが、わからないことがあった時にすぐに誰かに質問できるだけのコミュニケーション能力です。ある程度配置図などを頭に入れてあっても、常に配置図を見ながら作業をするわけではありません。自分の頭だけでは絶対にわからないところが出てきます。また、自分の担当で一人での作業が困難な時、助けを求めなければいけない職場です。私はそれが出来ず、結果すぐに腰を痛めてしまいました。
食品工場(耐用月数:5ヶ月)
おばちゃん達の園とでも言いましょうか……彼女達は総じてコミュニケーション能力が高いです。そのため、最初から気さくに何でも話してくれるのですが、愛想の良い対応というものが私には出来なかったため、すぐに嫌われてしまいました。
私は当時、弁当のラインでバランと沢庵を乗せる仕事に従事しており、さほど会話(そもそも唾が入るような真似をしてはいけない職場というのもあります)をする必要はなかったのですが、もっと大変な作業をしている人が急な雑用を任されたりしているのに、私だけが同じ作業の繰り返しで、非常に疎外感を感じたのを覚えています。たぶん、私に頼むのが嫌だったのでしょう。
コミュ症だとそうした単純作業はできても、結果的にこのような裏の人間関係で詰む可能性が高くなります。また、全体的に関わる人数が多い職場であるがゆえに、自分の性格を理解してくれる人物に会いにくいという点も、コミュ症にとって働きにくい部分です。
6.コールセンター(耐用月数:1ヶ月)
30代に入ってから始めたバイトです。電話やメール、チャットであれば、緊張せずに話せるタイプだったのを思い出して始めました。でも、それは相手がお袋や数少ない友人達相手だったからなのです。仕事としてかかってくる電話は本当に勝手が違います。
商品が欲しくて問い合わせてきたはずのお客さんが怒ってしまうぐらい、常にオドオドしていて、当時のことは余り思い出したくないぐらいです。すっかりトラウマになっています。研修時のシュミレーションでも沢山失敗していて、不採用になりそうなところを、せっかく採用担当の方に守って頂いたのに……なんて自分は駄目なんだろうと思いました。
つまり、たとえ顔が見えていなくても、コミュニケーションはコミュニケーションだと言うことです。分かっている方にとっては、そもそも分かっていたことではあるでしょうが、求められている資質は結局接客業などと同じだということです。
7.ティッシュ配り(耐用月数:1カ月)
一人自分のペースで行える点ではコミュ症向きの仕事でしたが、道行く見知らぬ人に急に物を渡す勇気という点においては、これほどまでにコミュ症に向かない仕事はありません。
そして残酷なことに、その振り絞って出した勇気の先に待っているのは、無視という洗礼なのです。配っているのがティッシュですから、貰ってくれる人は相当数いるのですが、その反動で貰ってくれない人がいると、自分の存在そのものが無視されているような感覚に陥ります。
もちろん、通行の妨げになっていることは自覚していますので、邪魔な気持ちが優先してしまうのはわかるんです。でも、無視は辛かった。それでどんどんと落ち込んでいき、やがて勇気がなくなっていって、最終的にティッシュを持って立ち尽くすオブジェと化してしまいました。
もしかすると、誰かと話すのが苦手なだけがコミュ症の症状ではなく、それでいて、人に完全に存在をなかったことにされるのが嫌なのもコミュ症なのかもしれません。私見ではありますが、私と同じようなキャラの方は、これまであげて来たバイトのなかでも、ある意味でもっとも辛い部類に入ると思われます。
コミュ症には向かないアルバイト総括
コミュ症って、コミュニケーションを取らずに生きていきたい人間じゃなくて、本当は、もっとコミュニケーション取りたいと思っている人間のことを言うのだと、私は思っています。だけど、やり方ばかりを気にして行動にうつすことが出来ないから苦しんでしまう。
その悪循環で私はここまで来てしまいました。ところどころ断定的な言い方をしてまいましたが、コミュ症を自負する全ての方々がここであげた職業に向かないとは思っていません。ただ、コミュ症をこじらせにこじらせている私が、どうしても続けられなかったアルバイトが、ここであげたものであるのは確かです。私のようにこじらせてしまう可能性が高いバイト、という風にとらえて頂ければと思います。
何をやっても駄目だとなると、どんどんコミュニケーションが怖くなっていきます。人には向き不向きがあって、仕事は他にも沢山あります(私はバイトですが)。それこそ人によりけりの話だとは思いますが、いきなり危険なリハビリをするのは、私のような人間を増やしてしまうことになりかねません。
と、おっせかいを承知で筆を取らせて頂きましたが、コミュ症を自覚している皆さんにとってこの記事が、自分らしくいられる職場選びの参考になれば、こんなに嬉しいことはありません。
紆余曲折はあったものの、私も40にしてようやく天職とも言えるバイトに巡り会えました。将来はもしも奇跡的になれるのであれば、正社員として長く働きたいなとまで考えています。
月並みではありますが、皆様のバイト選び、仕事選びが希望に叶ったものになりますことを、心よりお祈り申し上げております。お互い頑張りましょう。あれは向いてない、これはできないと、逃げてばかりではダメかもしれませんが、自分が戦える場所を選択するということは、とても重要なことだと思います。
40歳フリーアルバイターより
※文章を編集部で一部修正して掲載しています。