開始が数十分遅れる
今回参加させてもらったのは、『アーリーリタイア』をキーワードにしたセミナー。撤退した自己改革を行うことで、豊かな暮らしとそれを実現するための発想力が身につくという触れ込みだ。
アーリーリタイヤに関することを語る場で、開始時間が遅れるのはいかがなものかと思ったが、ここはじっと我慢して、講師の到着を待った。途中会場内で、隣の席の人に「初めてですか?」と話しかけられる。
とりあえず「初めてです」と愛想良く対応すると、「なかなかこのセミナー勉強になっていいんですよ」と軽い会話が始まる。彼が単なるリピーターなのか、このセミナーの関係者なのかはわからなかったが、ちょっとビビる。ちなみに30代前半ぐらいの女性だ。
講師が到着しパワーポイントを使ったプレゼン開始
数十分後、セミナー講師が正面のステージっぽいところ(といっても段差はない)に到着。講師は清潔感がある30代後半と思しき男性で、パリッとしたスーツを着ており、「遅れてすみません、別のセミナーの時間での質疑応答が長引きまして」と、挨拶がてらに笑顔で謝罪。質問に対しては情熱を持って、最後まで回答をするというアピールであろうか。
最近のニュースについての少々の雑談のあと、いよいよプレゼン開始となった。少し緊張が走る。私は机の上に置かれていたお茶のペットボトルを開けてグビリと流し込む。お茶は見たことがないメーカーの商品だった。
内容が自己啓発なサラリーマン風のプレゼン
話される内容のだいたいは、パワーポンイントに書かれていることを追っていく流れだ。パワーポイントそのものは、3つの丸の図形が部分的に重なり合っているページがあったり、具体例の概要が箇条書きに書かれていたりと、サラリーマン御馴染みの構成。アーリーリタイヤとはなんぞや?自己改革の必要性、縛られない人生のすばらしさ、といった趣旨のことが、お行儀よくまとめられている。
自己啓発セミナーというぐらいだから、もっと熱っぽく語ってくれるものだとばかり思っていたから、この辺りは少々拍子抜けした。だが、一通りの説明が終わった後、実際にアーリーリタイヤに挑戦している人の話や、成功した人の話になると、その雰囲気は一気に変わった。
【それっぽいプレゼン資料の作り方】
某大手広告会社の営業マンによれば、プレゼン資料は図やグラフが多くするとそれっぽく見え、さらに細かい数字に突っ込みを入れられにくくなるという副作用を得られるそうだ。意外と皆、面倒臭がりなのかもしれない。
「俺みたいになろうぜ」アーリーリタイヤ挑戦者と成功者の話
講義後半、講師の男性が、前述の挑戦者、成功者についての話題に入ったタイミングで、「それでは実際に生の声を聞いて頂きましょう!」と、急にテンションを上げだしたのである。すぐに二名の男性が会場内に入って、一人目の挑戦者の男性が話を始める。歳はまだ20代後半か30代前半ぐらい。正直、話自体は講師より断然面白い。
大学受験で挫折した話や就職に失敗した話から、現在のかなり良くなった状況までを、時折ジョークを含めながら流れるように語る。かなり話慣れている印象だ。ただ、気になったのは、セミナーの主題である自己改革の話はどうなったの?という点。
努力してアーリーリタイヤ(20代なら早すぎるきもするが…)が目前に来るレベルまで達せたのはわかるが、それは彼が頑張った(無論彼の話が本当ならの場合)からというだけの話で、我々受講者の自己改革には一切関係ないはずだ。
これでは私にとっては「俺みたいになりたいと思え」の単なるごり押しである。あれだけ話せるのだから、自分の気持ちの流れではなく、方法論の話を聞きたかった。
次に登場したのは40代前半の男性だ。成功者の一例として登場したこの方も話はうまかった。先に出てきた挑戦者の若者とはどうやら友人らしい。しきりに彼を誉める。海外旅行の話をする。投資したベンチャーが自分の協力の元、大成功を収めた話をする。失敗談のメインはチャリティーパーティーで飲みすぎた話。内容はこんなところ。
しかしながら、これらの話もまた、主題の自己改革とは離れているような気がした。やはりどこまで行っても「俺みたいになろうぜ」のお話なのである。
自分を全く啓発する気がない記者にとっては、ちょっと話がうまいオッサンと飲み屋で出くわした程度の衝撃しかなかった。
最後まで出てこない自己改革の具体的手段
具体的事例を話す語り部達の話が終わると、また講師の講義に話が戻された。前半戦よりは情熱的に語っているように見えたが、どこまでも概要や触りの部分ばかりで、どうしたら自己改革が出来るのかの手段については、とうとう最後まで語ってはくれなかった。
記者なりの言葉にまとめると、彼らが言いたかったことは「要は気の持ちようだぜ!俺たちみたいになりたいと思って真似してれば、自己改革出来るぜ!」といったところであろうか。けれども、会場内には「うんうん」としきりに頷きながら話を聞いている人もいたので、向上心がある一部の人間には通じるものがあったのかもしれない。
ただ、少なくとも向上心のない記者の気持ちや心構えには、何の変化も起きないセミナーだったと言える。ぶっちゃけた話、ややスタイリッシュな自慢話を聞かされただけの気分だ。
おまけ:セミナー後の資料の開示
ここまで色々と記者が実際に体験した自己啓発セミナーについての感想を述べてきたが、この話にはありがちなオチが待っていた。最初に受付で貰った資料、アレの話である。
「講義中に指示がある」とのことだったので、記者は律儀にその時を待っていたのだが、その時は最終最後、ギリギリのお時間まで来ることはなかった。
そして、ついに来た開封指示の時……
「受付時に皆さんにお配りした封筒が、今も開かれずに皆さんの目の前にあると思います」
講師の声が会場に響く。
「そちらの中には、今回スピーカーをして下さった○○さん(成功談の語り部)の著書と、今回のセミナーの内容をより深く理解していただくための、DVDと書籍が入っております。販売価格は、セミナー参加者限定○○○○円です。さらにご友人におススメして頂くと……」
これ以上の説明は必要あるまい。
向上心があろうとなかろうと、こういったセミナーには要注意である。また、セミナー終了後、隣の席に人からのお茶の誘いを断るのに苦労したことも付け加えておく。それにしても、それならそれで、やりようがもっとあったろうに……
ただ、あんな内容でも勧誘される人いるから、彼らの存在も成り立っているのだと思うと、ちょっと恐ろしくなる。マジで先走ってこっそり封筒を開けちゃわなくてよかった。間違って開けちゃった斜め前のあの人は一体どうなったのだろう?
私と同じくお茶に誘われていた様子だったが、アレは断りにくかろう……
記者の一番の心残りは、もしかしたら彼を救えなかったことかもしれない。
※ごく一部分にフェイクを混ぜて掲載しております。