STEP1:事前準備
我々ニートは準備をするのが苦手な生き物です。求人を見るのも、採用担当者に連絡を入れるのも、履歴書を準備するのも、すべて面倒だったからこそ、ニートとして今を生きる結果になりました。そんなニートに準備をしろというのは、いささか酷な話かもしれませんが、お盆はこっちの断りもなしにやってきます。就職はこちらが攻める側なので、やる気がなければ準備をしなくてよいですが、お盆の時は守る側です。親戚は勝手に来ます。守りを固める準備をしなくてはなりません。
方法は簡単です。自室の掃除をしましょう。パソコン回りは特に綺麗にしましょう。漫画本やDVD、ゲームソフトなども散乱していたらきちんと整理します。出来れば隠して外から見えないようにしたいものです。もし、ポスター等も貼られていたら、一旦剥がして収納しておきましょう。
目指す部屋は、縁もゆかりもない地方に飛ばされた新入社員が住むワンルームをイメージすると分かりやすいかと思います。必要最低限なもの以外、何にもない感じです。分からなければ、どんな感じかはお得意のパソコンでググってみて下さい。
なぜこんなことをするかというと、親戚とのやり取りの中で少なくとも自分の家族だけは味方につけたい意図があるからです。詳しくはSTEP2で説明しますが、とにかく部屋は綺麗に、余計なものがないような無機質な形にしておくのがベストだと言えます。「ん?どうした急に部屋を綺麗にして?」などと家族に思って貰えればしめたものです。これは遅くとも8月に入るまでには済ませておきましょう。
これでSTEP1は終了です。
STEP2:家族対応
無事、部屋の片づけが終わり、今度は家族への対応を行います。これは家族構成によって若干異なった対応が要求される場合がありますが、基本は同じです。『働こうとしてるっぽい感じ』を合言葉にアピールを行っていきます。STEP1で行った部屋の片づけはこの布石だったというわけです。
アピールと言ってもそんなに大変なことをする必要はありません。勇気を持って街に出かけ、駅などにある求人のフリーペーパーを2、3冊持って帰りましょう。この時注意してほしいのは多く持って帰り過ぎないことです。
年季の入ったニートの場合は特に気をつけてください。アピールを見破られる可能性がありますし、「タンスか本棚の段差を揃えるのに使うんだろう」と、冷めた目で見られてしまう可能性があります(実体験です)。
ここで手に入れた求人フリーペーパーは、各々自分に合った形のアピールに活用します。部屋のドアを開けて寝転がりながら眺めている姿をアピっても良いですし、机の上に広げて放置でも構いません。自分の出来る範囲で、フリーペーパーを持ち帰ってきた事実を家族の誰かに見せつけて下さい。発見された際に「仕事でも探してるの?」「まあね」のような簡単な会話をすることが出来れば完璧です。
事情があって、一歩も外に出られないタイプのニートになってしまった方にこの方法は使えませんが、この機会に是非外に出てみることをお勧めします。たかがお盆を乗り切るためといえど、外に出ることは社会復帰の第一歩です。
これでSTEP2は終了になります。
お盆は、もう親戚から小遣いを貰える楽しいイベントじゃありません。むしろ、あげなきゃいけない側です……
STEP3:出席決意
生粋のニートともなると、すっかり目前の困難から逃げ出す癖がついてしまっています。仮病でマラソン大会を休もうと画策する小学生のように、いざ本番という時に仮病を使って親戚と会おうとしないニートは少なくありません。
しかしながら、この方法を取るのは愚の骨頂だと言わなければなりません。私も一度この方法を採用したことがありましたが、その時の精神的被害は出席した時よりもずっと苦痛に満ちたものでした。
一同で一緒に食事をしている時などに、親戚の一人が「今日は○○は?」と聞いた瞬間全てが悪い方向に進むのです。「○○は今日風邪で寝込んでいるんです」そう家族が答えた瞬間……「アイツは今何をやっているんだ?」の話が始まります。
自分はその場には不在ですが、家族はとてもバツの悪い思いをしなければならなくなります。すでに経済面で家族に犠牲を払わせておきながらそれに飽き足らず、精神面(※)にまで犠牲を払わせるなんて、まとなニートのすることではありません。
このSTEP3は出席を決意するだけで済む非常にシンプルなSTEPでありますが、同時にニートとしての人間性が試されるSTEPでもあります。お盆を無事に乗り切りたいのはニート本人だけではないのです。ニートを抱える家族もまた、無事にお盆を乗り切りたいと考えています。
ここは家族にニートとしての矜持を見せる上でも、固く固く出席を決意しましょう。もう後戻りはできません。
※ニートを抱える家族は元々精神面も大変です。
STEP4:親戚団欒
STEP4に入ると、いよいよ親戚付き合い本番がはじまります。この時ニートがやってしまいがちなのが、ウジウジと陰キャラのように立ちまわってしまうことです。これだけは控えるようにしてください。
これまで沢山の準備をしてきました。それらの行為を無駄にしてはいけません。なかったことにしてはいけません。どうせ痛い視線を浴びることになるのです。俺(私)は『働こうとしてるっぽい感じ』なんだと堂々としていましょう。自分を騙しましょう。世界を騙しましょう。家族もきっとフォローに回ってくれると思います。
団欒中は辛い局面が度々訪れることが予想されますが、終始何の落ち度もないかのように振舞いましょう。ふいに就職の件などに触れられた際に便利な言葉は「頑張ってはいます」です。STEP3までの工程をきちんと行っていれば、家族も「最近は色々と頑張っているみたいで」と助け舟を出してくれますので、すぐに嵐は去るでしょう。
とにかく本番当日は、ニートとしてやり残すことがないくらい切磋琢磨してください。話しかけられたら答える。うなずく。人として当たり前の行動を取っているだけでも、ニート界では輝いて見えるのですから、親戚の方々だって例外ではありません。「アイツなんか変わったな」そういう印象を残すだけでも、ニートにとって痛い話題を劇的に減少させることができます。
STEP5:問題解決
お疲れさまでした。とうとう最終STEPです。あれだけ恐怖していた親戚付き合いは終わりました。あなたはしのぎにしのぎ、乗り切りに乗り切ったのです。
私もあの瞬間は歓喜に沸きました。
閉まっていたゲームソフトを引っ張り出し、ポスターを綺麗に貼りなおして、自分への御褒美ように我慢していた新作を夢中になってプレイしました。
でも、途中ふと気がついたことがありました。今度はお正月にまた親戚付き合いがあると…またあの苦しい準備とあいさつ回りをしなければならないのかと…
そこで実行したのがこの最終STEPです。この最終STEPについては実行するもしないも自由です。ここから先は読みたくない方は読まなくても構いません。
提案があります。
本当に働いちゃいませんか?
よくよく考えるとそっちのがずっと楽なんです。次の苦痛行事、お正月を乗り切りたいとか、そんな理由でもいいですから、ちょっと『働いてるっぽい感じ』になっちゃってみませんか?
私が就職活動を始めたのもこんな下らない理由からでした。でも、仕事は大変ですが、こういう場面での気持ちは凄く楽です。偶然良い仕事に巡り合えたから言うのではありません。ニート卒業を決意してとりあえず始めたバイトはすぐに辞めてしまいました。今の仕事は二回目の挑戦です。
でも、働いてると、ただ働いているというだけで、世間の目を気にしなくて済むようになります。これが大きかったから、私は1回目の挑戦であきらめずに次の勤務先を探しました。
このSTEP5さえ踏んでおけば、その他のSTEPは不要になります。一気に解決です。お盆の親戚付き合いを乗り切るどころか、褒められることもあるでしょう。
ここの部分に関しては、ニートそれぞれにそれぞれの考え方があると思います。もしかしたら、働くことで失ってしまうものもあるかもしれません。でも、働けば、少なくともこういう小さな気苦労はなくなります。しなくても良い苦悩もなくなります。普段は忙しく働いて、たまの休みに精一杯ダラダラするのも悪くはないものです。
ちょっと説教臭くなってしまったので、これぐらいにしておきますが、是非そのあたりのを含めて現役のニートの方には、今一度新たな決断をしてみてはいかがかと考えております。
これが最終ステップです。
それでは長文になりましたが、皆様のお盆の親戚付き合いが、心安らかなものになることを心より願っております。
元自称カリスマニート