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「僕は結婚して家庭を持つのが夢でした。やさしい奥さんがいて、元気な子供がいて……でも、彼女すら出来ない。だから、僕にとっては無職だろうと、ニートだろうと、彼女や奥さんがいれば勝ち組です。年収が低かろうとなんだろうと、同窓会などで奥さんや子供の話が出ると、負けたなと思ってしまいます」

可愛いお嫁さんと子供がいる、ごく普通の家庭を築きたい。世間的には勝ち組と言われる人でも、現代ではかなり難易度の高いことなのかもしれません。

聞く人が聞けば嫌味とも取られかねない発言ですが、Ａさんは本気で言っているようです。

「僕には昔からそういうところがあって、学生時代も彼女が欲しい、モテたいと思っていました。純粋そうな子が好きで、何度か告白したことがあります。でも、ダメなんです。僕の時代はまだ悪っぽいヤツがモテて、皆かっさらっていきました。ただ、それでもあきらめたわけではなくて……勉強が得意だったので、いい学校いい会社に入って、大人になってから見返してやろうと頑張ったんです。だけど、やっぱりダメ。世間がどう言おうと、僕は僕の中では明らかに勝っていません」

自分が勝ち組になるために努力をしたことは、ほとんど意味がなかったと語るＡさん。そこまで、言わなくてもと思ってしまいますが、どうやらこれにも強い持論があるようです。

「勉強して良い大学に入った時、学生時代遊びほうけていた彼らに勝ったと思いました。給料の良い会社から内定を取っていた時も、どうでも良い女の子と遊び呆けている同級生を見て勝ったと思っていました。でも、違うんです。一瞬そう思っただけで、実際は何の目的も達成出来ていないんです」

「高学歴や高収入を崇めるネットの書き込みを見て、悦に入ったこともありましたが、単なる現実逃避でしたね。こうした僕の経歴は僕が思う勝ち組になるための単なるアイテムなんです。それをうまく使えなければ価値はありません。今でもそれで彼女や結婚が出来るなら、安月給でも構わないと本気で思っています。こんなことを言うと、自慢か？と煽られるかもしれませんが、代われるもんなら学生時代の悪っぽいヤツと人生代わりたいですよ」

ゲームをクリアしたくてアイテムを集めていたのに、アイテム集めで全てが終わってしまいそうだということでしょうか……だとしたら、何ともやるせない気分になります。

「だから僕は負け組だと自覚しています。誰かから勝ち組と言われても全然嬉しくありません。完全にあきらめてしまいましたから。皆が言っている勝ち組、負け組なんて、ただの下らないお遊びですよ」

人生の目標を達成することが勝ち組への近道

終始、想いの丈をぶつけるように話して下さったＡさん。極論のように聞こえてしまう部分は多少あっても、彼の「真に勝ち組か負け組なのかは本人次第」という言葉には妙な説得力を感じずにはいられませんでした。

負け組から抜け出そうとする中年が主人公の漫画『最強伝説黒沢』の中に、「勝ちと思えよ、思えば勝ちよ」と書かれた色紙が出て来るのですが、自分自身を負け組だと主張する裏でAさんが本当に言いたかったのは、もしかしたらこんなことだったのではないかと思えてなりません。

Ａさんは様々な社会的な勝利を手にしても、最後まで勝ちとは思えなかったようですが、彼の言う勝ち組、負け組は自分の人生の目的を達成出来たかどうかで決まるというのは、なかなか真理に近いものがあるのではないでしょうか？

どんなに周りがうらやむ状況でも、自分が勝ちと思えなかったら負け。逆の状況でも、自分が勝ちと思えたら勝ち。

なかなかどうして、哲学的な取材でした。