請負の契約が決まると解雇が始まる
― コンサルタントとしての収入はどれくらいですか?
成功報酬が占める割合がかなり高いので、私自身の収入は年度によってかなり異なります。成績が悪い時は1000万円を下回ることもあります。
― 解雇の候補に上がるのはどのような従業員が多いですか?
一般的に仕事出来ない人が切られるイメージがあるようですが、全くそんなことはなくて、顧問先企業の事情や状況に合わせて、候補者は変わっていきます。たとえトップレベルの営業マンであっても切られる可能性があります。
― トップレベルの人材を解雇する理由は?
顧問先によって本当に様々としか言えませんが、候補者リストに入ってしまう理由として一番多いと思われるのが、やはり社内派閥のような問題です。どう考えても、解雇すると損失にしかならない人材なわけですから、『その人がいると困る人がいる』という理由がもっともしっくりくるでしょう。
古いタイプの日本企業が顧問先だと、こういうことがザラにあります。私もそういったケースに多く巡り合っていますが、遭遇する度に「何かの間違えじゃないか?」と、「えっ…」となりますよ。
コスト削減の意味がないと、一応反対意見を表明しますが、だいたいは無駄ですね。コンサルタントとして、失った損失を他で埋め合わせなければならなくなるので、仕事もやりにくいです。
― 一番大変な業務はなんですか?
退職勧奨時の面談が一番大変ですね。それこそ修羅場になることもあります。顧問先の人事担当者の補佐という立場でいい時は良いですが、自分がメインの人事担当としてリストラを行う場合は大変です。……というか、ほぼほぼメインで行うケースが圧倒的に多いですが。
― 退職勧奨時には例えばどんな修羅場がありましたか?
泣き出したり、怒り出したりは良くある話なので、仕事に慣れてくると、段々と気にならなくなっていきますが、その場で突然暴れ出したり、自傷行為に走ろうとしたり、といった状況はいまだに慣れませんし、コンサルタントとしての自分の未熟さを感じます。
トラブルを起こさないように、その道のプロとして退職勧奨の場にいるのに、そうなってしまってはまるで意味がないですから。ただ、解雇候補者が感情的になるケースというのは、意外とそんなに多くはなくて、だいたいの方は大きく肩を落としつつも素直に応じてくれます。元々辞めるつもりだったのか、たまに喜び出す方もいらっしゃいますよ(笑)
名門企業でもリストラが当たり前の時代
― 仕事をする上で特別に気を付けていることはありますか?
解雇の候補者となった方々に敬意をもって接するということです。感情論を一切抜きにして、事務的に対応していくことこそが、相手に対して敬意を示す一番の方法であると信じています。冷たく聞こえるかもしれませんが、退職勧奨の場で「すみません」とか「申し訳ない」と言ったって、何の意味もないんです。それを言ってしまうと、かえって失礼なぐらいだと思っています。
それは解雇を告げる側の人間が、自分の気持ちを守りたくて口にしているだけの言葉ですからね。解雇候補者を下に見ているから出る言葉なんです。特に「君を守れなくて申し訳ない」なんて思っているとしたら、それは傲慢も良いところです。
― 解雇の候補リストに載せられた時は、どのように行動すると良いですか?
様々な思いはおありでしょうが、ここは気持ちを強く持って、自分の条件をより有利に進める方向に頭を切り替えていくことです。頑張って会社にしがみつくことも出来なくはないですが、その先に将来はありません。
酷な話、会社がいらないと言ったらいらないんです。でも、会社は他にも沢山あります。それだったら、退職金をより多く貰えるように交渉したり、今の会社のお給料を貰いながら、再就職活動を出来る期間を延ばした方が建設的です。
― 現在の仕事に対してどのような思いがありますか?
肉体的にも精神的にもキツイ仕事ではありますが、私の性格には合っていると考えています。解雇という、非常にデリケートな問題を扱いはしますが、意外とドライな考えだけでは出来ない仕事なので……
私が、しっかりと解雇候補者の今後のことを考えて仕事をすれば、結果的に業務はスムーズに進行していくわけで、流石に感謝はされないでしょうけど、一人の人間の人生に大きく関わる仕事というのは、やはり、やりがいがあります。
― 現在会社勤めをされている方に、最後に何かメッセージをお願いします。
我々のような仕事をしている人間は、サラリーマンの方々にとって敵のように思われてしまうでしょうが、我々は純粋に与えられた職務を遂行しているだけで、決して敵ではありません。
我々コンサルタントも同じサラリーマンでもあります。私だって、いつクビになるか分かりません。お気持ちは分かっているつもりです。解雇の候補者となった場合は、むしろ、味方だと思って接して下さった方が、よっぽど有利に交渉をすすめられます。
また、会社から退職勧奨をされたからと言って、自分が無能な人間だと思う必要もありません。先ほども申し上げましたが、企業の事情によって、解雇候補のリストに載る人材は変わります。お仕事を貰っているコンサルタントとして、こんなことを言ってはいけないのかもしれませんが、本当に無能なのは、人員削減をしなければいけないような状況に陥らせた経営陣の方なのです。
『狡兎死して走狗烹らる』
会社にとって必要な人材は、その時々で違うということを忘れないで下さい。
リストラ、人員削減を生業にしている人物と聞くと、どこかドライスティックな人物像をイメージしてしまうが、桧室さんは非常に人情味にあふれる話し方をされる方であった。具体的なコンサルティング業務について語る時は、少々シビアなコメントもあったが、それはそこに彼なりのポリシーがあるからこそだ。
この知られざる職業、リストラ請負会社の仕事内容には、サラリーマンの方であれば、色々と考えさせられる部分があるだろう。会社が人員削減を決意した時、彼らの仕事が始まり、誰かの仕事が終わる。
何とも皮肉な話であるが、そもそも仕事というのはそういうものなのかもしれない。