介護の知識を利用してパソコン教室を開業
― どうやってこのようなビジネスを思いついたのですか?
介護職の経験があったので、その資格と経験をある程度生かせる商売はないか?と、考えていた時に思いつきました。パソコンについては趣味で結構使っていて自信があったので、それほどレベルの高い授業でなければ教室ぐらいなら開けるんじゃないかと。
それで、デイケアサービスのような形で、パソコン教室が開けないか?と考えつきました。ただ、生徒の対象となるのは介護が必要な高齢者ではなく、ある程度自立行動が出来る高齢者に絞りました。現実的に考えて、お客様には介護とは、分けて考えなければならないものだと感じましたので。
― 介護と分けて考えるとはどういうことでしょうか?
介護士の資格を持っているのがウリと言うと、お客様に誤解を生む可能性が高いと思いました。ついでにちょっとした介護も手伝ってくれると……それは現役の介護士の方のお仕事なので、パソコン教室の先生の仕事とは分けて考えて頂かないと、仕事に支障が出ます。ごくたまにですが、実際にそういうお客様もいらっしゃいました。
出張でパソコン教室の先生をやる上で、私が介護職の経験があることをアピールしたのは、あくまで、高齢者の扱いに慣れているということを、伝えたかっただけなので。ただ、ご家族からのちょっとした介護についての相談などには気軽に乗っています。
― 認知症の予防になると思いますか?
私は医師ではないので、ハッキリしたことは申し上げられませんが、脳を活性化させる効果はあると思いますし、少なくとも生活に変化を起こすことは出来ます。実際、精神面での改善が見られる生徒さんは多いです。
「もしケガをしたりして体が動きにくくなっても、ネット通販などで買い物をすることが出来ますよ」と言うと、俄然やる気になって、同時に自立心も芽生えるようです。
あきらめさせない事が授業の秘訣
― 高齢者にパソコンを教える上で気を付けていることはありますか?
何度でも繰り返し繰り返し教えるということですね。教えたことを忘れてしまったら、また、元に戻ってやり直して教えます。中にはすぐ次に進みたがる生徒さんもいらっしゃいますが、よっぽど優秀でもない限りは、ゆっくり過ぎるぐらいのペースで教えていきます。
また、案外あきらめが早い方が多いので、「私にはやっぱり出来ない」と思われる前に、どんな些細なことであっても出来た点を褒めることにしています。それがやる気に繋がるわけです。高齢者の方は家族と同居されていても、褒められる機会があまりないようで凄く喜んで下さいます。
― 全くパソコンを知らないお年寄りでも、教えれば覚えられるものなのですか?
出来るようにするのが私の仕事です(笑)ただ、思っている以上に覚えられるものですよ。大変なのは全くパソコンを知らない人より、全くパソコンに興味がないお年寄りです。認知症予防のために、家族が無理矢理やらせている場合などに多いです。
私も仕事なので頑張りはしますが、パソコンに少しも興味を持たないお年寄りに、パソコンの操作方法を教えるのは限界があります。
― 高齢者専門ということで、教えるための特別なテクニックなどがあれば教えて下さい
ほとんどが企業秘密ですが(笑)、サービスでちょっとだけ。
ご家族と同居されている方の場合生徒さんの場合は、その生徒さんとご家族との関わり方をうまく見極めて、教えるようにしています。もっとお孫さんと仲良くしたそうだったら、お孫さんと二人で授業を受けて頂くこともあります。
家族であまり存在感がないというような場合は、パソコンのことだけでも自信がつくように、高度なレベルを目指して頂いたり、インターネット上での人との交流をメインテーマに教えたりもします。
お一人住まいの方は、話し相手にもなってあげることが大事です。昔話ももちろんですが、パソコンについての話が私には出来るので、会話のタネには困りません。もう教える必要がないレベルの生徒さんが、まだ私を呼んで下さるのはそういう面も大いに関係しているど思います。
― 何か新しいことを始めようとしている高齢者の方に最後にメッセージをお願いします
月並みな言葉かもしれませんが、何かを始めるのに遅すぎるということはないと私は考えています。新しいことを始めるということは、脳みその中でまだ使っていなかった部分を新しく使うということです。それはとても大事なことだと思います。
パソコンなどの馴染みが薄いものになると、手を出すのに少し勇気がいるかもしれませんが、やってみればどうってことはありません。「あれは若い者が使うものだから…」と頭ごなしに決めつけずに是非、挑戦してみて頂きたいと思っています。
うまくいけば、心持ちだけでも若い頃に戻れるかもしれませんよ。これはパソコンだけに限ったことではなくて、心と体を若く保つ秘訣は、何かに挑戦し続けることにあると、私は思っています。
一生懸命働いてきた後の老後ですから、ぼんやりと過ごすのも悪くはないのでしょうが、一つぐらい新しいことに挑戦してみても良いのではないでしょうか?
高齢者専門のパソコン教室の先生という、知られざる特殊な事業を行っている真島さんのお話であったが、如何だっただろうか?
長く生きて様々な経験を積んでいる分、お年寄り相手に物を教えるというのは、非常に大変そうな作業であるが、高齢化社会を逆手に取って思いついたこの彼女の事業は、なかなか将来性がありそうな事業である。
新しい挑戦を決意して成功した真島さんと、新しく挑戦を始めた彼女の生徒であるお年寄りの皆さん。こう並べて考えてみると、この商売がうまくいっている理由も、何となく分かるような気がするから不思議だ。