お小遣い15000円には夫婦の事情が…
「いや、ちょっと事情がありまして、嫁さんが働きに出られないんです。一人娘でご両親が寂しがるから、ちょくちょくそちらにも顔を出さなければならないらしくて。他にも昔、仕事でストレスを溜め込み過ぎて、体がおかしくなったとかがあったそうですから」
「正直、パートだけでも出てくれるとかなり助かるんです……でも、それで体をおかしくされても困りますしね。それに家事は良くやってくれています。洗濯などを手伝わないからと言って、怒られたこともないです」
事情があって、奥様が働きに出られないとの理由を語ってくれたが、Aさんはわずかに不満気な様子だった。アルコールの力も手伝って、少々語気が強まる。
「ただ、体のことは分かりますが、簡単な仕事ぐらいならやってみようとは、思ってくれても良いと思うんですよね。月に3万円だけでもいい。何なら2万円でもいい。それだけでも稼いでくれれば、この歳になって、みみっちいことをしなくても済むと思うんです。せめて嫁さんの奨学金の返済分だけでもなくなってくれれば……」
ローンと合わせて奨学金の返済となると、確かにAさんの収入だけでは厳しそうだ。
「でも、出来ませんよ。たまには自分が飲みに出たいからとか、部下の前で格好つけたいからとかの理由で、働きに出てくれなんて頼むなんてことは。高めのマンション購入にGOサインを出したのも、結局は私ですからね」
このままだと話がズレてきてしまいそうなので、お小遣いの件に話戻した。15000円というお小遣いのやりくりで一番困ることはなんなのだろうか?
「会社に必要な備品を購入するために、一時的に自分が払う場面があると思うんですけど、それがキツイです。少額でも響いてくる。定期代など1万円を超える大きな金額に関しては、嫁さんに言って、その分のお金を出して貰っていますが、300円とか1000円の金額だと回数が多くてイチイチ言いにくくなります」
「幸いにも私は営業ではないので、取引先への交通費などを日常的に清算する必要はありませんが、ちょっとした物品が急に必要になった時は本当に困ります。嫁さんにあらかじめそれ用(細々とした経費用)のお金を貰っておいて、経費が下りたら返すという手もあるのですが、それだと、ちょっとしたヘソクリも出来なくなってしまうので……」
Aさんが初めて言葉を濁した。ちょっとしたヘソクリとは一体?
「金額の大きい備品を購入時に、嫁さんにお金をくれと申請する際に、ちょっとだけ必要な金額を上乗せして伝えてるんです(注)。嬉しいことに、弊社は経費用の通帳が給料用の通帳とは別になっているシステムでして、差額を使わせて貰っています。それでも一回あたり、2000~3000円ぐらいのものですから」
【編集部:注】
仕事で10000円の備品を購入する際に、奥さんに13000円必要だと言って家計費から出して貰う。領収書等を提出し、きちんと10000円で会社に申請。後日会社から10000円が経費として振り込まれた後、家計費に10000円を返還。最初に家計費から貰った13000円と、この家計費に変換した10000円を差し引くと、3000円のヘソクリが生まれる。サラリーマンがよくやるヘソクリ方法である。
今月はヤバイ!!!
「ただ、細々としたものを買う時に嫁さんに申請してしまうと、その技が使いにくくなるんです。嫁さんはなんだかんだで勘の鋭いタイプなので、申請の数は極力抑えたい。だから、細々としたものに関しては、そのヘソクリや、今までごくわずかずつ溜めて来たお小遣いを使って支払っています」
「ただ、それでも、ボディブローのように効いてきますよ。経費用の通帳にその額が振り込まれる日までは、戦々恐々としています。領収書を失くした日なんて憂鬱ですね。会社に言えば、経費として認めてくれる方法はあるのですが、200円ぐらいの領収書を失くしたからって、イレギュラーな対応を取って貰うのが悪くて……」
正攻法とは言えないが、少ないお小遣いでもどうにか糊口をしのいでいるようだ。そんなAさんは続いて、15000円のお小遣いで出来る楽しみについて語ってくれた。
「15000円って本当に厳しいです。ぶっちゃけた話、何にも出来ない。缶ジュースさえ長らく買っていないような気がします。仕事に支障が出るといけないので、1000円~2000円は毎月溜めていますから、実際に使える金額はもっと少ない。個人的な楽しみは、月に2~3回ラーメン屋に行ったり、牛丼屋でカルビ定食を頼んだりぐらいです」
「だけど、堪らなくおいしいんです。独身時代に食べた高級なおつまみよりも何よりも。このために生きてるって感じさえします。ビールも付けちゃおうって時なんて、天にも昇る気持ちです」
Aさんほどまではいかないまでも、少ないお小遣いでやりくりしているサラリーマン達は多いだろう。わずかな楽しみを語って頂いたついでに、苦境を乗り切る裏技のようなものがないか聞いてみた。
「あれが食べたい、これが飲みたい、遊びたい……っていう欲求は振り切ってしまうと、止められなくなってしまうと思うんです。だから、そういう欲求をお金を使わない方法で満たす方法を、自分の力で見つけていくしかない。使えるお小遣いは限られているんですから」
「会社に水筒を持っていくんだっていい。私のように嫁さんと交渉して、おにぎりを持っていくんだっていい。本当に何だっていいんで、お金を使わずに出来ることを勝ち取っていくことです。裏技はありません。もう乗り切るしかない」
最後に今の生活について思いのたけを述べて頂いた。
「不満がないと言ったら嘘になりますが、全て自分が決めたことですからね。何で自分が働いて貰った給料を使うために、嫁さんに頭を下げて、大きく目減りした額を受け取らなきゃいけないんだと、思うこともありますが、自分が決めた選択です」
「仕事を頑張って給料が上がれば、多分お小遣いもあげてくれるでしょう。それまでの辛抱だと思って、今は取りあえず頑張ります。でも、せめて20000円にならないかなぁ。そうすれば、月に一度くらいは。こういう風に飲むこと出来るんですが」
全ては自分が決めたことと、男らしい発言で話を終えたAさん。お話を伺った取材地が居酒屋であったことで、ほんのり酔っていらっしゃったようだが、15000円のお小遣い生活の実情を、かなりリアルに伝えて下さったのではないだろうか?
世間で一般的と言われるお小遣いは30000円だが、その半分の15000円でサラリーマン生活を送るAさんの言葉には、妙に胸に迫るものがあった。