高「そんなことはありません。誰に対しても平等ですよ。他の男性も同じ意見だと思います」
私「社会的に顔が良い方が有利なのは大昔から重々承知しているんですが、あまりにも露骨に見えたものですから」
高「それはね。どの教育担当者でも同じだと思うんですけど、個々の性格に応じて対応を変えているだけなんですよ。君の場合はいくら強く言ってもめげない逞しさがあったし、男性以上の体力もありそうだった。それを合理的に判断しただけなんです」
私「私はメンタル豆腐だし、運動音痴で風邪とか良く引くタイプなんですが?」
高「はははは。何をおっしゃる。一度も会社を休んだことはなかったじゃない」
私「あれは高田さんが無理やり出てこいと言ったからです」
高「そうでしたっけ?とにかく、仕事ですから顔で態度を変えることはありませんよ。馬鹿馬鹿しいお話です。甘やかして結局仕事を覚えてもらえなければ、自分の評価が下がるんですから」
私「なるほど、それは一理ありますね。では、質問を変えて伺いますが、可愛い子には旅させろという言葉をご存知ですか?」
高「質問の趣旨を理解しかねますが……はい。知ってはいます」
私「じゃあ、当時の私は可愛い子ということになりますか?」
高「ええ、なると思います。多分、私が教育してきた新人の中で一番厳しくしたと思いますから」
私「じゃあ、あの私が3年目の時に教育されていた新人女性は可愛くなかったと?」
高「ええ、ただの後輩ですね。あなたの方がずっと可愛がっていたと思います」
私「……あれは『可愛がり』に近かったような気がしますが、まぁ良いでしょう」
私「あの高田さん……?」
高「ん…なんですか?」
私「私が退職した少し後ぐらいに、あの女性に告白されたそうですね。無事振られたとお聞きしましたが……」
高「はい……おっしゃる通りです」
私「可愛いから告白したのではないのですか?もう一度聞きます。やはり教育担当の男性は可愛い子には旅をさせない生き物なのではないですか?」
高「可愛いから告白したのは事実です。だけど、これだけは胸を張って言えます。可愛い子だからって教育は教育、好意は好意です。それで仕事をおろそかにしたりはしません!」
私「ユー、もういいから認めちゃいなよ」
高「いいえ、今回は世の新卒教育担当者のために来ているわけですから、一歩も引くわけには行きません」
私「どうしても認めないんですね」
高「いや、私個人としては認めます。その通りです。男ですからやっぱり可愛い子の方が良いに決まっています。でも、それは男というカテゴリーの中での私の場合です。教育担当というカテゴリーの中ではそうではありません」
私「なに、野々村誠議員みたいなこと言ってるんですか」
高「男として、教育担当として、どこかで折り合いをつけないと大人じゃないと思うんですよ」
私「野々村はもういいです」
高「……うーん、ま、冗談で乗り切ろうかと思ったけど、率直な意見を言わせて貰うと、やっぱひいきしちゃうよね。だって男だもん」
私「唐突に手の平を返しましたね」
高「だけどね、逆に可愛い子に妙に厳しくする人もいるんだよね」
私「それは意外です」
高「なんか出来る先輩気取りたいっていうかさ。やけに厳しくしてさ。後で少しだけ優しくする手口があるんだよ。あれってどうなのかね。俺にはできないけど、今の部署では良く見かけるよ」
私「開き直ったら、あっさり敬語使うのやめましたね。まぁいいです……あ、ってことはやっぱり私は私で可愛かったと?」
高「いや、だから俺は違うタイプだって。普通に可愛い子限定の話。それに君にやさしくしたことないしね」
私「そうですか。ふん。もういいや……じゃあ、結構色んな手口があるから一括りに可愛い子が得だとは言えないってことですか?」
高「皆が皆、俺みたいなロクでもない教育担当じゃないとは思うけど、好みの女性だったら何かしら他とは違う対応を取られるのは間違いないんじゃない。仕事とプライベートはみたいなこと皆言うけどさ。職場内恋愛が普通にある世の中なんだから、そういうのはあって然るべきでしょ。じゃあお前らはプライベートで二人で会ってる時、職場の話しないのかよって言いたくなるよ!」
私「急に大きな声で……何があったのかは知りませんが、落ち着いてください」
高「俺が言いたいのは可愛い子は可愛い子で苦労があるってことだよ。俺が言っても説得力ないけど、向こうだって仕事を覚えに来ているだけなんだからさ。そこに余計な気持ちを入れられたりすると、色々悩むと思うよ。お前みたいなヤツもいるんだし」
私「あー確かに!やたら優しいのも気持ち悪そうといえば、気持ち悪そうですし、私可愛くなくてよかったかも」
高「だろ?」
私「…ん?なんだ…今のだろ?…は?」
高「まー俺の経験上、可愛い子は得することもあるし損することもあるって感じだな。プラマイゼロってことなんじゃない?」
私「ちょっと荒はありますけど、高田さんの意見を聞いたおかげで私も少し考えが改まった気がします」
高「だろ?」
私「……チッ。本日はお忙しいところありがとうございました」
高「はいよ。意外と楽しかったから機会があったらまた呼んでねー」
うまいこと丸め込まれた感じはありましたが、思ったよりは収穫があるインタビューになったのではないでしょうか?
世の女性の皆さん。
可愛い子だろうと、可愛くなかろうと、得をするか損をするかは、着いた教育担当者による。
このことを覚えておくと良いかもしれませんね。