フツメンが少し考え込んだ後にそう言うと、どうして俺に振るんだといった表情でメガネが頷いた。
「LINEは聞いてる女子が少しいましたね。卒業式終わりに。俺は聞かれなかったけど」
すぐにでもメガネを抱きしめてやりたい衝動にかられるが、ぐっとこらえる。どんな感じなの?と質問すると、期待のイケメンが口を開いた。
「仲の良いクラスだったので、クラスメイトとかのはだいたい知ってるんですけど、後輩の女の子とか、あんまり知らない子とかは聞かれましたよ」
流石はイケメンである。私は彼になりたい。
こんなところでも進む電子化
「俺は中学の頃も学ランだったんですが、ボタンは取られてないっすね。その時もメールかLINEでした。あ、でも中学の体育祭では鉢巻下さいっていう変な女の子がいましたね。毎年違う色なんで、それは毎年誰かしらにあげましたよ、当時の彼女は怒ってましたけど」
誓って言うが、イケメンの彼は礼儀正しく愛想もよく、非常に丁寧に質問に答えてくれた。しかし、この憤りはなんだろう。さも当然のように『ボタンは』と言われても、返す言葉が見つからなかった。あと、鉢巻の話と元彼女の話は聞いていない(嘘です。ごめんなさい。趣旨には沿っていてありがたかったです)。
と、心の中で勝手に私が憤っていると、今度はフツメンが語り始める。
「あとは普通にプレゼント渡したりとかは見たかな。ほとんどは付き合ってる同士のヤツですね。ボタンとかはホントにないです。親から聞いたとかで知ってるやつは普通にみんな知ってると思いますけど。そんなことするより、LINEの連絡先聞けた方が女子も嬉しいんじゃないっすか?」
なるほど、フツメンの言うことも一理ある。現代ではこういった部分でも電子化が進んでいるということなのだろう。
【オッサンのつぶやき】
今の高校生は基本的に恋愛はLINEを交換してからでないと始まらないそうで……凄い普及力。でも、LINE電話だと電話代がかからないから、そこは少しうらやましいなぁ。携帯電話の通話代のためにバイトしなきゃいけないほど昔は高かったし。
LINEを聞かれなかったメガネの挑戦
「そういや、コイツ、卒業式で最後に好きな子にLINEを聞いたんですよ」
取材に満足して私が頷いていると、短い沈黙を破るように突然フツメンがそう切り出した。
「同じクラスなのに、ずっと聞けなかったらしくて、そんなに派手な子じゃないから、すんなり教えてくれるよって、二人であおったんです」
フツメンに指をさされたメガネが照れくさそうに笑う。今回の記事の趣旨からは逸脱するが、当時の私の男としての境遇に似た私の大好きなメガネのために、彼に結果を尋ねてみた。
「ちゃんと教えてくれました。遊ぼうって誘ったら、ちゃんと返事くれて今度映画に行くことになりました。勇気を出して良かったです」
メガネは幸せそうだった。どうやら私の思い違いだったようだ。彼は私とは別世界の人間だった。
「今日はそのお祝いで集まったんです。これから三人で作戦たてるんですよ」
そう言うと、フツメンとイケメンは、メガネの肩に手を乗せなながら微笑んだ。私は取材に協力してくれた三人に丁重にお礼を言い、その場を後にした。
さよならが勇気をくれる!?
結局大事なのは勇気
青春とはいつの時代も良いものである。時代は変わり、第二ボタンの文化は廃れていってしまっているようではあるが、姿形を変えて「勇気を出して思いを告げる」根本の部分は変わっていなかった。
第二ボタンからメールやLINEに電子化はされても、別れの時をきっかけにして、新たな行動を取る文化はこれからも残っていくことだろう。
帰り際に振り返ると、イケメンとフツメンは手を振ってくれた。メガネはメガネを拭いていた。
人生は一期一会。その時、その瞬間に勇気を持てるものだけが、青春の世界では勝者になれるのかもしれないと、私は思った。