今まで自分が実際に受けたクレームの中で、印象に残っているものを尋ねてみたところ、Mさんは言いにくそうにいくつか実例を挙げてくれた。
初めて手を繋いでドキドキのデート。でも貴方のときめきと相手のときめきは全くの別物かもしれない……
Mさんが語る獲物を狙うハイエナ達の事例その1『デート商法』
「一番多かったのはデート商法的なお話ですね。高額な絵を買わさそうになったり、宝石を買わされそうになったり……あとは中身のない投資の話を、持ちかけられたといったものもありました。幸い私が受けたものの中では、実際にお金を支払ってしまった方はいらっしゃいませんでしたが、同僚が受けたクレーム中には、残念ながら何人かいらっしゃったみたいです。私が直に被害にあった方から聞いたのは、複数のエリアと運営会社を分けて婚活パーティーに参加して獲物を漁っていたとのことでした」
Mさんの話を聞いて思わず膝を打ってしまった。決して許される行為ではないが、そうした者たちにとって婚活パーティは、絶好の狩場の一つだと言えるかも知れない。
「その方は別の婚活パーティーの会場から出てくる加害者を、たまたま見かけたと言っていました。偶然昔行ったことのある婚活パーティーの会場だったそうで……すぐに分かったそうです。その場は気のせいだと自分に言い聞かせて、しばらくは相手に言わずに黙っていたようですが、得体の知れない会社への投資に誘われた時に怪しいと思って問い詰めたところ、どう見てもクロだったというお話でした。その時相手は認めはしなかったものの、絶対に結婚しようと言っていたのを急に態度を豹変させて、逃げるように離れていったそうです」
「普通にデートをして、結構な時間を一緒に過ごしていたので、非常にショックだったともおっしゃっていました。全部ウソだったのかと。この件に関しては、たまたま別会場から出てくるのを運良く目撃出来たのが幸いしましたが、好意を利用して、じっくり時間をかけて騙していく手口は、恐らく見抜くのがかなり難しいでしょうね」
別の会場にも顔を出していたこと察するに、おそらくその加害者は数人を同時進行で騙そうとしていたのだろう。金銭的な被害がなかったことは救いだが、被害者の感情を想うと、察するに余りあるものがある。
Mさんが語る獲物を狙うハイエナ達の事例その2『結婚詐欺未遂』
「あとは結婚詐欺未遂のようなお話ですね。パーティーの時に行っていた経歴と職業がデタラメだったそうです。お恥ずかしい話、ここまではそれほど珍しいことではないのですが、それでも構わないから一緒になろうと言ったら、待っていましたとばかりに結婚資金を要求されたというお話がありました」
「その方が資金を用意すると、自分が管理したいから渡してくれと譲らなかったそうです。結構な額だったのできちんと両親に会うまではと出し渋っていると、家族に重い病気の人がいると言い出したり、実は二人でお店を始めたいと言い出したり……すんでのところで我に返って被害に遭わなかったと言っていました」
「悲しいお話ですけど、その方はまだその時の方がお好きなようで、クレームとしては受け付けましたが、こちらにも相手に対しても怒ったりする感じではなく、懐かしむように泣きながら話すんです。申し訳ない気持ちで本当に心が苦しくなりました」
とにかく焦りは禁物、自己防衛の手段を
しかしながら実際問題として、こうした被害を運営側で未然に防ぐことは難しいとMさんは語る。
「先ほど申し上げた通り、運営会社側でいくら対策を打っても最後はご自身に見極めて頂かないと、というお話になってしまうんです。クレジットカード会社じゃありませんから在籍確認なんてのも出来ませんし……」
「身元確認が厳しい紹介系のお見合い会社の一部では、そうしたガチガチのサービスを提供しているところもあるみたいですが、その分コストが相当かかります。自由恋愛を前提としている以上、やはり、お相手選びはお客様の自己判断でと、お願いするしかないのが現状です。パーティー後のトラブルにも免責事項を設けている会社がほとんどです。ですから、クレームを受けても、ひたすら謝り続けるぐらいしか社員時代の私に出来ることはありませんでした」
最後にMさんに、これから婚活パーティーに参加する方へのアドバイスを伺ってみた。
「まず、何よりも自己防衛をしっかりしておくことです。これがないと、会場選びも何もあったもんじゃありません。ちゃんと管理がされている会社でも、被害に遭うかもしれません。婚期を急いで、早い段階からこの人しかいないと決めつけてしまうのは本当に危険です。一目惚れも素敵なお話だと思いますが、婚活パーティーで結婚相手を選ぶ時は、その後の見極めの方がずっと重要になります」
友だちと参加すると被害に遭いにくい!?
「防衛するテクニックの話で言えば、効果的なのは一人では参加せずに、一緒に独身のご友人と参加されることです。私の知っている事例では、こうした被害に遭われる方は、お一人で参加されている方が多くを占めていました。ご友人と参加することで、客観的な視点を持つ味方が出来て、そうした危険人物に狙われるリスクを軽減する効果が期待できます」
「もちろん、全てを防げるわけでは出来ませんが、ご友人連れの方と一緒であれば相手の顔を覚えている人が一人増えますから、仮に何かあっても色々と相談に乗って貰うことができます」
「あと副作用として、本来の目的である出会いの面でも、友人連れの方の方が緊張がほぐれて有利になる効果があります。周りに独身のご友人がいない場合は、一人で参加した婚活パーティーで婚活仲間を見つけることに徹するのも一つの手です」
「色々と怖い話をしてしまいましたが、ほとんどの方が真面目に相手を見つけに来ている方ばかりです。警戒ばかりしていても話は前に進みません。ただ、そういう危ない人たちが存在しているということだけでも、頭の隅に置いていただければと思います」
「私はもう辞めた人間ですが、社員の目からみても婚活パーティーは楽しい出会いの場でした。最終的に正しく判断する目を持てば、基本的には怖いものところありません。そこだけは安心して大丈夫です。またパーティー中は、社員が怪しい人物に目を光らせていますので、そこもご安心ください」
婚活パーティーに健全な参加者達を狙う、ハイエナ達が存在するのは事実のようであるが、あまり疑ってばかりいても意味はない。Mさんの話を聞く限りでは、素敵な伴侶を見つけるためには、結婚という目的だけにとらわれずに、冷静な視点で相手を見ながら行動することが望ましいと言えそうである。